あの場所


 俺たちの高校は、二駅隣だった。
 駅から歩いて五分もかからない、場所的にはいい高校だった。
 サッカー部に入っていた俺とあいつは、当然帰りが一緒で。
 最寄り駅も同じだし、話も合うし……気がつけば、親友になっていた。
 お互いいつからそうなったのかもわからなかったし、
 わざわざ友人だと確認するのもばかばかしくて、口にしたことはないけれど。

 部活の帰り。二駅だから各停を使う。
 一応急行も止まるのだが、部活の終わる時間はラッシュに巻きこまれるため、俺もあいつも敬遠した。
 オヤジと密着するのは勿論イヤだが、OLと密着すれば手の位置に困る。
 ヘタなところを触ろうものなら、即座に痴漢と叫ばれるからだ。

 だから、よほどのことがないかぎり、俺たちは各駅で帰る。
 流石に座れはしないが、二駅ではたいしたこともない。
 ……それでもあいつは立ち寝をマスターして眠りこけていたが。
 一度置いていこうかと思ったが、あとが恐いのでやめておいた。

 機械に変わった改札機に定期を通す。
 降りるまばらな人とともに、道を歩く。
 商店街の途中で左に曲がり、少し行くと、三叉路に至る。

 そこから右に行けば俺の家。
 左に曲がればあいつの家。

 そしてそこにある自動販売機。

 俺たちはたいていそこで飲み物を買い、しゃがみこみ、くだらない話をしてから帰る。
 たまに自販を使う人もくるが、外れた道なので邪魔になることもない。
 電車の中にいる時間は短いし、混んでいるから、あまり喋らない。
 その分をここで埋めている感じだった。

 年季の入りかけた自販は、それでも時々商品が入れ替わる。
 俺は新しいものを見ると、ついそれを選んでしまう。
 微妙な味だった時は、あいつにも飲ませて、その味について大まじめに語ることもあった。

 あいつは逆に、いつもブラックコーヒーだった。
 高校生のくせにと俺が言うと、家族がそうだから仕方ないだろ、と言い返してくる。
 あの苦みは俺には好きになれないものだったが、あいつは平気そうに飲んでいた。

 ゆっくり缶をあけていけば、周囲は夜になり、疲れた身体は食物を要求する。
 そのくらいになるとどちらともなく缶を捨て、簡単な挨拶をして家路につく。

 俺たちの高校生活は、そんな感じだった。

 そして今、俺はもう数駅離れた大学に。
 あいつは遠い大学のため一人暮らしをはじめた。

 一人での帰り道、俺は時々あの自販で飲み物を買う。
 そして夕暮れのせまる町中を、何をするでもなく眺めた。

 手の中にあるのはブラックコーヒー。
 あいつがいなくなってから飲み始め、今ではすっかり好物になったもの。

 今度の休みにあいつが帰ってくるという連絡を受けた。
 久々だから会話のネタは山ほどある。
 居酒屋にだってそろそろ入っていい年だけれど、俺たちは自然にこう言った。


「また、あの自販機で話そうな」





 上記とは違う男二人の友情もの。
 でもなんとなく雰囲気が同じになってしまいました……
 こういう友情があったらいいな、という感じで。

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