路地裏の少年
 記憶をとりもどしてしばらく。
 様変わりしたタツマイリを、男はぼんやりと眺めていた。

「どうしたんだ? ダスター」

 問いかけるクマトラに、この男にしては珍しく、不明瞭な言葉を出した。
 ひょろりと背の高い細い彼は、見た目からは驚くほど真面目だ。
 その彼が曖昧に濁すのを見て、彼女は眉をひそめてみせた。

「足が痛むとか?」

 過去の傷のことを問う彼女に、いいや、と首をふる。

「そういうんじゃない。ただ最近、変な夢を見てな」

 それだけだよ、と笑った。
 体調が悪いわけではないと知り、少女はほっとした顔になる。

「なら、いいけど。なにかあったら遠慮なく言えよ」
「ああ、ありがとうな、クマトラ」

 礼を言うと、照れたような表情を返された。
 気恥ずかしくなったらしく、足早にリュカのもとへ行く彼女を見ながら、
 彼は近代化したタツマイリを眺め回す。

 時折の夢は、いつもパズルのピースのように断片的だ。
 けれどどれも、ほぼ同じ地域、おなじ時間であるように感じられた。
 最初に見た夢が一番古いものかとなると、必ずしもそうではないようだが。

 暗い路地裏、夜の闇の中を、潜むように渡っている誰か。
 夢はその誰かの視点で繰り広げられる。
 若干低い目線からして、年若いのだろう。

 町並みはお世辞にも綺麗ではない。
 むしろ裏通りだとか、荒れたとか、そういう形容詞が似合うようだった。
 けれど彼にとってはそれが日常の場所であるらしく、
 歩くスピードには些かの躊躇いもない。

 とりたててなにが起きるわけでもない、
 路地裏でその日暮らしをする誰かの情景。

 タツマイリにはそんな場所はない。
 チチブーは近いと言えなくもないが、同一の景色は存在しなかった。
 自分はタメキチとしてどこもフリーパスに近かったから、間違いないだろう。

 おそらくこの島のどこにも、あんな場所はない。
 そのはずなのに。

 自分はそこを知っている気がするのだ。

 そんなことはありえない。
 それなのに夢の場所は覚えがあり、
 視点の主は、幼いころの自分なのだという奇妙な確信がある。

 一体どういうわけなのか、考えてもわかるはずはなく。
 気にしたところでどうなるものでもないし、解決もしないけれど、
 それでも心のわだかまりは拭えなくて、クマトラにまで心配をかけてしまった。

 もしかしたら、建設中だというトカイとやらかもしれない。
 雷に打たれたせいで、予知夢なんて能力がついたのかもしれない。

 ありえないと嘲笑する自分を感じながらも、
 ダスターは無理矢理そう結論づけた。
 今はそんなことを考えている場合ではないのだと。

 思いをふりきるように肩を落とすと、
 時折こちらを見ながらリュカの相手をしているクマトラのもとへ足をむけた。
 心配されないよう、気取られないよう、普段の落ちつきをとりもどそうとしながら。


 奇しくも彼は旅の終わりに、その夢の理由を知る。
 それはまごうことなき彼の過去なのだ、と。

―終―
 
 
 初出:06.07.20 / 背景:LOSTPIA

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 記憶喪失になってからタマゴを奪還し、記憶をとりもどす。
 リダの鐘はなくなっているわけなので、
 封じたはずの記憶が一番外れやすいのはダスターではないかなと。
 リダから聞く前に全部思い出してたりすると、
 それはそれで妄想が広がります。
 この話ではダスターはスラムの少年設定です。