いつもメロディーをあなたに
 白い船は行く。
 彼方ノーウェア島を目指して。

 途中で何人かの人々を乗せ、船はひたすら進んでいく。

 その途中。
 もともとは大陸であったろう場所を通った時、
 彼らは皆一様に違和感覚え、船上で足を止めた。

 頭の裏側あたりに、ぴりっとした痺れに似たものが、とどいたからだ。
 それはいつまでもなくならず、彼らになにかを訴えかけている。
 人々は互いに目配せをし、その痛みの原因を調べることにした。

 少し集中すると、痛みはある方向から発せられているようだった。
 めちゃめちゃに地面が割れ、水没しかけている、かつて土地だった場所。
 ばらばらのジグソーパズルのようなその一つが、その発信源だった。

 そこには、若い夫婦が倒れており、
 二人は生まれたての、おそらくかれらの子供であろう赤ん坊を、
 お互いの腕を絡めて、守るように抱いていた。

 息絶えていたけれど表情はとても安からで、
 それを少しも悔いてはいないようだった。

 赤ん坊は泣いているが元気そうで、亡骸にはまだ温もりがある。
 亡くなってからそう時間はたっていないのだろう。

 一行の一人が抱きあげてあやすと、すぐに赤ん坊は眠ってしまった。
 と同時に感じていた痺れもなくなったので、
 あれはこの子供が発していた信号に違いないと判断された。

 赤ん坊のおくるみには、大急ぎで書いたらしいメモが残されていた。

『どうか、誰かがこの子を、クマトラを見つけてくれますように。
 この子の不思議な力が、助けてくれますよう、心から願います。

 たとえ 息絶えても、わたしたちは我が子を永遠に愛しています。
 この子の 力が、空に溶け 大地に 還った わたしたち の 愛を、

 きっと 感じて …… くれ る と……祈っ て…………』


 メモはそこで途切れていた。

 そして意見を問うまでもなく、赤ん坊は船の一員になった。





「どうした?」

 ふと足を止めて、どこともつかぬ場所を見つめる彼女。
 PSIを覚える前触れかと、心配げに問いかけた。

 だが、ふりむいた表情はいつもどおりで、だるそうではない。
 むしろ、どこか安らいだようなものだった。

「なんでもないんだけど、でも」
「……でも?」

 どう言ったものかと、少し思案したのちに。

「……聞こえるような、気がするんだ」

 ぽつりと、それだけ呟いた。
 彼は彼女の表情から、それ以上訊くことをやめて、ただ、そうかと言った。
 そのかわり、くしゃりと彼女の頭をなでてやった。

「あ、いいなー」

 羨ましがる少年とその忠犬に、わかったわかったと笑って同じことをする。
 そんな和やかな光景を見ながらも、彼女の耳はべつのものを聞いていた。

 明瞭なものでも、判然とした言葉でもない。
 けれど、たしかに自分にはそうだと認識できる。

 ……自分だけに聞こえるその声。

 空から、鳥の声から、木々のざわめきから、ありとあらゆるものから。
 ふとした時に、落ちこんだ時に、色々な時に。

『……愛しているわ、いとしい子……』

 奇妙なまでに確信している。
 会ったこともない。顔も知らない。名前もわからない。

 けれど絶対、間違いない。


 それは、母親の声。


―終―
 
 
 初出:06.07.17 / 背景:Little Eden / イメージ曲:愛のテーマ

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 めちゃめちゃ16ビートの影響を受けています。
 ……むしろエイトビートかもしれません。
 BGMをかけてらっしゃるかたもいますし、サイト内では流しませんが、
 どちらかをかけつつ読んでいただきたい……かも。
 でもかなり想像入っているので好き嫌いがあるかもしれません。
 最後にダスターを入れるのは、趣味です。