姫の条件
 リダの話を聞いて、ニューポークシティへもどってきた一行は、
 下水道での疲れを少し癒そうと、一休みしていた。
 あまり人気のない、かわりに自然のある場所へ行き、適当にすわりこむ。
 ボニーと遊ぶリュカにジュースを渡して水分補給を促したダスターは、
 ふとクマトラの姿がないことに気がついた。

「ヒメ?」

 離れたところでひっそりと、崖のむこうを見ている姿を見つけ、声をかける。
 彼女はびくりと肩をふるわせて、ふりむいた。
 その表情は険しく、憤っている様子だった。

「……オレは。ヒメじゃない」

 やがてぼそりと、顔をうつむかせる。
 表情を隠したまま、タガが外れたようにまくしたてはじめた。

「リダの話を聞いただろう。オレはヒメじゃないんだ。
 ってことは、……アイツはそれを知っていたはずだよな?
 でもアイツはオレを、ヒメとして育ててきた。
 ずっとずっとアイツは、嘘をついてたってことか!?」

 敢えて名前を出さない「アイツ」が誰かなんてことは、
 ダスターにはとっくにわかっている。
 思い出すのもつらいから、名前を言わないのだろうことも。

「なんでそんな嘘ついたんだよ。
 べつにオレはヒメじゃなくたってかまわなかったのに……!」

 なにに腹が立つのか、きっと本人にも混ざりすぎてわからないのだろう。
 その気持ちをあらわすように、制御しきれないPSIが、
 ぱちぱちと彼女の周りではぜている。

「……なぁ」

 ひととおり言い尽くして肩で息をするクマトラに、声をかける。

「ヒメの条件って、なんだろうな?」
「なに……?」

 顔をあげてこちらを凝視する彼女に、笑いかけて。
 はぜる火花をものともせずに、ぽんと頭をなでてやった。
 ちり、と痛む手は、けれど彼女の気持ちを思えばなんてことない。

「たとえば本当に王様とお后様から生まれたって、
 そのあとどう育つかは本人次第だろ?
 少なくとも、弱い者を助けて、理不尽なことには従わずに、
 まっすぐ道を歩いている今の状態なら、ヒメと名乗る資格は十分にあるんじゃないか?」

 虐げられていたサルサを救ったり。
 ブタマスクたちに果敢に挑んでいったり。
 口調こそぶっきらぼうで荒っぽいけれど、中身までそうでないことは、
 彼女と関わった者なら誰でも知っている。

「あのひとは、中身が伴わなければ、ヒメなんて呼ばなかったと思うぞ?」

 人間の一生に関心ないマジプシーが、彼女をヒメと呼ぶのなら。
 それは生まれに関係なく、彼女自身を認めたからに違いない。
 ダスターの言葉に、クマトラは黙って、……うなずいた。

「つくりばなしでも、なんでも。
 従うかどうか、役に相応しいかどうか。
 それは本人次第だろ?」
「……お前のドロボーは、よく似合ってるけどな」

 いつもの少し挑戦的な調子で、長身の彼を見上げてにやっと笑う。
 一歩下がって大きく背を伸ばすと、自分のマイナスの考えをふりはらうように、
 ぶんっと頭をふって髪の毛を整えた。

「逆にヒメじゃないなら、暴れ放題ってことだしな!」

 さばさばとした笑顔で、物騒なことを言い放つ。
 ほどほどにしろよ、と思う一方で、彼は苦笑を押し隠した。

 つくられた身分から抜けだせないのは。
 自分もまた同じなのだ……と。

―終―
 
 
 初出:06.07.13

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 事実を知ったら、クマトラは結構悩むんじゃないかなと。
 なにせ姫、だったわけですから。
 ダスクマのつもりがコケた気もします。ファンの皆様ごめんなさい……