グラスの合間
 ダスターが崖から落ちた。

 それは自分が命じた修行の最中のアクシデント。

 幸い、命に別状はなかった。
 だが、今は松葉杖が必要なほどで、今後どうなるかは、はっきりしない。
 このタツマイリには医者がいない、その事実をこれほど重く感じたことはなかった。

 回復は順調そうなので、おそらく日常生活に支障はきたさないだろう。
 自分の過去の経験からしても、それは判断できる。
 しかし、それがなんだと言うのだろうか。

 獣避けの煙玉と交換で手にいれた酒を煽りながら、自分への罵倒を吐き捨てる。
 ダスターは一度たりとて自分を責めない。
 そして彼も、表だっては咎めない。

 だが、どう考えても、ダスターの怪我は自分のせいだ。
 一時的な怪我ですめばいいが、もしなにかしらの後遺症が一生残ることになったら?
 行動に支障をきたすようになったら、修行の続行どころではなく、
 彼の人生自体を滅茶苦茶にしてしまう。

 どれだけダスターが気にしなくても、なにも言わなくても。
 己の中の後悔は消えることはないだろう。

 ぐっと酒を飲みほして、長いため息をついて。
 ふと、疑問に思った。

 なぜ自分は、こんなことをしているのだろう。

 平和なタツマイリに、ドロボーは不要だ。
 勿論自分たちは他人の住居を荒らしたり、盗んだりはしない。
 ドロボーと名乗っているのも、その技術ゆえのことだ。

 だが別に、ドロボーと名乗らずともかまわないのではないだろうか。
 自分の技も、なにも息子だけに教えず、必要とする者に与えればいいのでは?
 獣避けの煙玉のつくりかたも、教えてしまえば皆にはたすかることだろう。

 冷静に考えると、あとからあとから沸いてくる。
 しかしウエスは、そのすべてを棄却した。

 たとえ冷静に考えてそれが最善だとしても。
 一生残るかもしれない怪我を負わせた時点で、その選択肢はもう存在しない。
 自分の技をすべて彼に、彼だけに与える。

 それこそが自分の贖罪なのだ。

―終―
 
 
 初出:06.06.24 改訂:06.07.13 / 背景:hare's

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 対にしてみました。
 この二人の関係は考えると色々出てきますよね。
 飄々としていますけど、中身は真面目そうな気がします。